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100人で鑑賞する百人一首 200271

1,980円(本体1,800円、税180円)

定価 1,980円(本体1,800円、税180円)

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発行:1983.11
著者:久松潜一/監修 武田元治/編
判型:四六978-4-87786-271-8

はしがき
 「百人一首」は多くの人々に長く親しまれてきた古典です。その一首一首の真の歌心と表現とに触れた百人のかたの鑑賞を収めるのが、この本のねらいであり、特色でもあろうかと思います。
 百人で鑑賞することにどんな意味があるのかと問われると少々困るのですが、百人の歌を集めたものが価値をもつならば、百人のの鑑賞を集めた本も存在価値を主張してもよいように思われます。もちろん、百人のかたは一流の鑑賞者でなければなりません。そして、それぞれの歌に応じ自在に個性的な見方を示してくだされば、読者は二重の意味で百花繚乱の姿に触れることが可能です。
 さいわい、多くの先生がたがこの本の主旨を御理解くださって、御覧のとおりに立派なメンバーで御執筆をいただくことができました。期日その他さまざまな事情のために、御執筆いただきたいと思いながら依頼できなかったかたや、辞退されたかたも何人かおられますけれど、それにしても百人一首鑑賞に関するこれだけの大顔合わせは、現在望みうる最高の水準に近いかと思うのです。かりに将来同種の企画が立てられたとしても、この本の歴史的意義は消えることはないでしょう。
 「百人一首」が国民の古典としてより深く理解されるために、鑑賞文は平易に書いていただくことをお願いしたのですが、やはりそれとは別に原作に即した解説文を添えました。口語訳・語釈・作者・出典などですが、これは一貫した形のほうが便利と思われますので、わたくしが通して書き、すべて見開きページの紙幅に収まるように簡明に旨としてまとめました。したがって諸説を詳細に挙げることはしておりません。また先学の御著書や論文などからお教えを受けた部分も多いのですが、御芳名を一々挙げておりません。御容赦いただきたいと存じます。
 解説の下の参考の欄は、教育出版センター編集長の柴崎一男氏が苦心の結果作製したものです。編者としての責任上、わたくしも随時相談を受けて協力いたしました。
 「百人一首」は、多くのかたがたと同様に、わたくしにも個人的な思い出がいろいろとあります。幼い日のカルタ遊びに、「ゆくへもしらぬこひの道かな」などという歌に接した時は、大きな鯉がゆうゆうと泳ぎ去ってゆく様子を想像したものです。いま国文学にたずさわるようになったのも、もしかしたら、そんなことが縁になているのかもしれません。
 大学の国文学科での久松潜一先生の演習が「百人一首」でした。その久松先生がこの本の監修をしてくださいます。ありがたいことと恐縮に存じております。
 またこの本のできあがるまでには、解釈学会の山口正会長、教育出版センターの柴崎芳夫社長と俊子夫人をはじめ、たくさんのかたがたの暖かいお力添えがあったのを忘れることができません。あつく御礼を申しあげます。
昭和四十八年秋 武田元治

復刊を祝して
このたび『100人で鑑賞する百人一首』が復刊されることになった。これは昭和48年に出版された本である。ちょうど二十歳になったばかりの私は、手にとって何度も頁をめくった記憶がある。本書の最大の特徴は、題名にも掲げられているように、当時著名な一流の研究者百人が、各自一首ずつ分担執筆していることである。いわば研究者のランキングベスト百(もう一つの百人一首)でもあるのだ。このような豪華な顔ぶれの企画は、今となってはもう実現不可能であろう。その意味でも長く読み継がれるべき名著・良書だと思われる。本書は単に百人一首の参考書として有益であるのみならず、本書を通し一流の研究者に出会うこともできるのである。是非、多くの方に愛読していただきたい。
同志社女子大学 吉海直人

◆もくじ◆
はしがき 「百人一首」解説・・・武田元治
1.秋の田の・・・天智天皇・・・久松潜一
2.春すぎて・・・持統天皇・・・犬養 孝
3.あしびきの・・・柿本人麻呂・・・鴻巣隼雄
4.田子の浦に・・・山部赤人・・・関根俊雄
5.奥山に・・・猿丸大夫・・・太田善麿
6.かささぎの・・・中納言家持・・・中西 進
7.天の原・・・安倍仲麿・・・扇畑忠雄
8.わが庵は・・・善撰法師・・・佐伯梅友
9.花の色は・・・小野小町・・・高崎正秀
10.これやこの・・・蝉丸・・・白田甚五郎
11.わたの原 八十島かけて・・・参議 篁
12.天つ風・・・僧正遍昭・・・岡 一男
13.つくばねの・・・陽成院・・・大久保 正
14.みちのくの・・・河原左大臣・・・北住敏夫
15.君がため 春の野に・・・光孝天皇・・・土屋文明
16.立ちわかれ・・・中納言行平・・・早坂礼吾
17.ちはやぶる・・・在原業平朝臣・・・池田弥三郎
18.すみの江の・・・藤原敏行朝臣・・・松田武夫
19.難波潟・・・伊 勢・・・生方 たつゑ
20.わびぬれば・・・元良親王・・・松野陽一
21.今来むと・・・素性法師・・・田中順二
22.吹くからに・・・文屋康秀・・・橘 誠
23.月みれば・・・大江千里・・・伊藤嘉夫
24.このたびは・・・菅 家・・・秋山 虔
25.名にしおはば・・・三条右大臣・・・増渕恒吉
26.小倉山・・・貞信公・・・鈴木知太郎
27.みかの原・・・中納言兼輔・・・村松博司
28.山里は・・・源宗于朝臣・・・山本健吉
29.心あてに・・・凡河内躬恒・・・峯村文人
30.有明けの・・・壬生忠岑・・・塚原鉄雄
31.朝ぼらけ 有明の月と・・・坂上是則・・・近藤芳美
32.山川に・・・春道列樹・・・内野吾郎
33.ひさかたの・・・紀 友則・・・神保光太郎
34.たれをかも・・・藤原興風・・・酒井清一
35.人はいさ・・・紀 貫之・・・山岸徳平
36.夏の夜は・・・清原深養父・・・石井庄司
37.しら露に・・・文屋朝康・・・鹿児島寿蔵
38.忘らるる・・・右 近・・・荒 正人
39.浅茅生の・・・参議 等・・・山口 正
40.しのぶれど・・・平 兼盛・・・萩谷 朴
41.恋すてふ・・・壬生忠見・・・小町谷照彦
42.契りきな・・・清原元輔・・・佐藤喜代治
43.あひみての・・・権中納言敦忠・・・森脇一夫
44.あふことの・・・中納言朝忠・・・片桐洋一
45.あはれとも・・・謙徳公・・・仲田庸幸
46.由良のとを・・・曽禰好忠・・・神作光一
47.八重むぐら・・・恵慶法師・・・古川清彦
48.風をいたみ・・・源 重之・・・樋口芳麻呂
49.みかきもり・・・大中臣能宣・・・保坂 都
50.君がため 惜しらら・・・藤原義孝・・・喜多義勇
51.かくとだに・・・藤原実方朝臣・・・宮田和一郎
52.あけぬれば・・・藤原道信朝臣・・・伊地知鐵男
53.なげきつつ・・・右大将道綱母・・・木村正中
54.忘れじの・・・儀同三司母・・・藤田福夫
55.滝の音は・・・大納言公任・・・橋本不美男
56.あらざらむ・・・和泉式部・・・清水文雄
57.めぐりあひて・・・紫式部・・・阿部秋生
58.有馬山・・・大弐三位・・・阿部俊子
59.やすらはで・・・赤染衛門・・・上村悦子
60.大江山・・・小式部内侍・・・青木生子
61.いにしへの・・・伊勢大輔・・・寿岳章子
62.夜をこめて・・・清少納言・・・田中重太郎
63.今はただ・・・左京大夫道雅・・・丸野弥高
64.朝ぼらけ 宇治の・・・権中納言定頼・・・中島斌雄
65.恨みわび・・・相 模・・・糸賀きみ江
66.もろもろに・・・前大僧正行尊・・・次田真幸
67.春の夜の・・・周防内侍・・・五島美代子
68.心にも・・・三条院・・・次田真幸
69.嵐吹く・・・能因法師・・・伊原 昭
70.さびしさに・・・良暹法師・・・中田祝夫
71.夕されは・・・大納言経信・・・久保田淳
72.音にきく・・・祐子内親王家紀家・・・近藤潤一
73.高砂の・・・権中納言匡房・・・目加田さくを
74.うかりける・・・源俊頼朝臣・・・関根慶子
75.契りおきし・・・藤原基俊・・・平井卓郎
76.わたの原 こぎいでて・・・法性寺入道前席白太政大臣・・・岩津資雄
77.瀬をはやみ・・・崇徳院・・・野口元大
78.淡路島・・・源 兼昌・・・藤岡忠美
79.秋風に・・・左京大夫顕輔・・・久曽神昇
80.長からむ・・・待賢門院堀河・・・松村 緑
81.ほととぎす・・・後徳大寺左大臣・・・後藤重郎
82.思ひわび・・・道因法師・・・井上宗雄
83.世の中よ・・・皇太后宮大夫俊成・・・谷山 茂
84.ながらへば・・・藤原清輔朝臣・・・小沢正夫
85.夜もすがら・・・俊恵法師・・・犬養 廉
86.なげけとて・・・西行法師・・・佐古純一郎
87.村雨の・・・寂蓮法師・・・松村 明
88.難波江の・・・皇嘉門院別当・・・森本元子
89.玉の緒よ・・・式子内親王・・・安田章生
90.見せばやな・・・殷富門院大輔・・・藤平春男
91.きりぎりす・・・後京極摂政前太政大臣・・・志田延義
92.わが袖は・・・二条院讃岐・・・福田秀一
93.世の中は・・・鎌倉右大臣・・・桜井祐三
94.み吉野の・・・参議雅経・・・井本農一
95.おほけなく・・・前大僧正慈円・・・土岐善麿
96.花さそふ・・・入道前太政大臣・・・島津忠夫
97.来ぬ人を・・・権中納言定家・・・石田吉貞
98.風そよぐ・・・従二位家隆・・・山崎敏夫
99.人もをし・・・後鳥羽院・・・永積安明
100.ももしきや・・・順徳院・・・吉田精一
上句索引


***
四十年ほど前に刊行された名著『100人で鑑賞する百人一首』を、この春復刊しました。
学者や評論家、歌人など、当時の第一人者100名が、一人一首を鑑賞した本書は、当時大妻女子大学教授だった、和歌を主とする中古文学研究で著名な武田元治先生の語釈を得ての話題の書でした。

この春改定された各社の中学の教科書に採用され、残り少ない在庫を前に、思い切って重版をと、武田元治先生にご相談したのでした。
元治先生はとても喜んでくださり、重版ではなく、復刊となさった方がよろしいでしょうとご教示くださいました。

現在の百人一首研究の第一人者、吉海直人先生にお言葉を賜り、できたての本書を元治先生にお届けしたのが三月。
翌月にあちらの世界へ旅立たれた元治先生に見届けていただけたことは、今でも私の救いです。
同志社女子大学教授の吉海先生は、本書を手にしたのは二十歳だったと述懐されておられます。

我が家での百人一首は、お正月の遊びでした。
万葉集と百人一首が大好きな祖父が、いつも読み手です。
旧仮名遣いや聞き慣れない言葉も、お正月のカルタ遊びはそんなもの、と自然に馴染んでいたように思います。(残念ながら、あらかた忘れてしまいましたが)
百人一首の札を囲んで楽しそうだったのでしょう、愛犬ラッキーがヤキモチを妬いて、札の上に腹ばいになり、笑いとともにお開きになったこともありました。
祖父だけは最後まで読みたかったようで、少々憮然としていたのも、懐かしい思い出です。
カルタ遊びでも坊主めくりでも、百人一首をご家庭で楽しめるといいなぁと思います。
そして、どんな和歌なのだろうと話題になったとき、本書はバイブルのように、きっとお役に立つことでしょう
西野真由美

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