瀬戸のわん船 200616
第一話 瀬戸のわん船
第二話 かなしき兄妹
・瀬戸のわん船
明治初期、桜井(現、今治市)では船持ち親方十九人、売り子百二十三人でした。大正中期に至ると、それぞれ、五十七人、三百五十人に増え、部落によっては、その九十パーセントが「椀」に関わる職についていたそうです。
代金は、春、秋、また節季(年の暮れ)の後払いで「椀船商法」は、わが国の月賦販売の起こりだと記録に残っています。
・かなしき兄妹
愛媛は古代より帝と結びつきの深い土地柄で、関わりのある物語が古事記・日本霊異記・今昔物語等に数多く掲載されています。
これもその一話です。兄妹の切なさは、さながら、源氏物語の光源氏と藤壺の宮の想いと同じー。二つが重なった私は、さまざまに想いをめぐらせ、ふくらませ、詠まれた歌はできるだけ挿入して創作いたしました。
***
前作『神宿る島』は、伊予の国や瀬戸内海を舞台に繰り広げられる古代の長編ファンタジーでした。
今度の『瀬戸のわん船』(吉野晃希男絵)には、「瀬戸のわん船」と「かなしき兄妹」の2篇を収めてられています。
タイトル作品「瀬戸のわん船」は、江戸時代の船乗りの若者、茂太が主人公。
金毘羅さんの祭で、ヤクザ者に絡まれている娘を助けた茂太。
そのるいを、いつかは嫁にもらいたいと、一途に仕事に励む茂太。
複雑な潮流と、島やはえ(岩礁)が多い難しい瀬戸内海。
まもなく帰港と心浮き立つ船を、突然立ち込めた深い霧が覆い、海坊主の化け物が襲いかかるが、茂太の度胸と機転で難を逃れる。
金毘羅さんの祭や富くじなど、伊予ことばを散りばめながら、情景や風俗も細やかに描かれます。
祭のざわめきが印象的な、爽やかな短篇です。
ちなみに、瀬戸のわん船商法は、割賦販売の始まりだそうです。
もう一篇の「かなしき兄妹」は、古事記にある数行の記述をもとに書かれた中篇。時代はグッと遡って、古代、上代の物語です。
同母の兄妹の、許されない恋。
衣服を通しても、その美しさが光のように突き抜ける、ソトオシノイラツメ(衣通郎姫)とも伝えられる妹ヒメ(大郎女オオイラツメ)と、凛々しく才知に長けたヒツギノミコ(皇太子)との悲恋。
古代であっても、道を外れた恋は、許されるものではなかったのです。
手を取り合って山の中へと消えていく二人に、静かに雪が降りかかります。
江戸時代や古代を描く物語から、時をこえた歴史の世界が、人々の暮らしを纏ってイキイキと見えてくる作品です。
西野真由美
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