C58 坂を上る 200386
著者の実体験を元にしたフィクション。「路傍の石」「真実一路」を彷彿とさせる少年小説。太平洋戦争末期、蒸気機関車の𨫝たきに青春をかける少年の物語。病床でまとめ上げた著者の渾身の遺作。
◆もくじ◆
一、東日本大震災、そのとき
二、花形蒸気機関車に憧れて
三、機関車C58との出会い
四、試走実験にC58106を選ぶ
五、「燃えろ、燃えろ」間断なくー石炭を入れ続けてー
あとがき 井上謙
あとがきに寄せて 井上聰
主要参考文献
この物語はわたし(岸本喜一)の体験を下書きにしたフィクションで、第二次大戦の末期、花形の機関士に憧れて構内手となり、懸命に下働きした少年たちのSLへの愛と苦闘を描いたものである。
師の森先生はわたしが研究している横光利一の秘蔵っ子、愛弟子であり『月山』で文壇や歌曲をはじめ映画、日本舞踊、演劇界に広く影響を与えた方である。わたしの前作紀行小説『中国大河の旅』(柿の葉)も、本作の「C58坂を上る」もその題名を先生がおつけ下さった。
今回、約十年あまりをかけてその作品が完成できた。先生の示唆である「一日一枚」を中断した己の怠惰を恥じつつ、天界の先生に感謝を込めて、ご報告出来ることをお許し願いたい。(著者あとがきより抜粋)
***
『C58 坂を上る』は、作者、井上謙先生の実体験をもとにしたフィクションで、『路傍の石』や『真実一路』を彷彿とさせる小説です。
作品舞台の主な時代は、太平洋戦争の末期。
蒸気機関車の鑵たきを目指す少年が主人公です。
タイトルの「C58 坂を上る」は、「月山」などの作家、森敦先生の命名。
森敦先生は、井上謙先生がご研究されていた横光利一さんのお弟子さんでもありました。(井上謙先生は横光利一学会の会長で、解釈学会の顧問でもあられました)
謙先生は、この作品を見ていただいた時に、「大学の教師なんぞは辞めて、物書きになれ」と森敦先生から言われたと仰っておられました。
実体験をもとにしたフィクションなだけに、その描写の細やかさに圧倒されます。
蒸気機関車のC58106に寄せる想い。
そこには、かつての学友の夢も重なります。
これは蒸気機関車を愛し、支えた男達、そして少年達の物語なのです。
病床の謙先生から、お話を伺ったのが昨秋。
原稿をいただいたのが一月。
そして、松本忠さんが急ぎ描いてくださったラフスケッチを病室にお届けした時の、本当に嬉しそうな満足気な謙先生の笑顔が、握手が、私にとっての最期になりました。
謙先生はその翌日、2月8日に亡くなったのです。
ご子息の聰先生、そして教え子のみなさまにお助けいただいて、ようやく明日の法要に間に合いました。
疲弊し切った今の日本に、C58のように、坂を上って欲しいんだ、と、ご自身の苦しさをも顧みずに語ってくださった謙先生。
高邁な強い信念の 崇高な美しさを、私は、そして同席した息子の大介は、謙先生から学ばせていただきました。
合掌 西野真由美
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